正直に言おう。僕は、『frontier』を舐めていた。

いや、舐めている自覚はなかったんだけど。

これまでずっと、僕にとって音楽と言えば、加那芽兄様が嗜むクラシック音楽だけだった。

そういう高尚な音楽だけが正道で、現代のアイドルの歌なんて邪道…だと。

無意識に、そう思い込んでいたらしい。

そんな自分が、とんでもない食わず嫌いだったと痛感した。

…良いじゃないですか。『frontier』。

天方部長が散々、画像を見せてくれた時は。

アーティストと言いながら、ルックス重視のアイドルみたいなものなのかと。

だから、肝心の歌は大したことないんじゃないかと、勝手な思い込みをしていた。

済みません、『frontier』の皆さん。

ルックスだけじゃなくて、歌も素晴らしいですね。

特に、このルトリアさんの歌声。

優しげなんだけど、芯の強さみたいなものも感じられる。

いつまでもずっと聴いていられる、心地良さがある。

俗に言う、耳が幸せ、ってヤツ。

「良い歌だなぁ…」

天方部長、あなた良い趣味してますね。

あっという間に一枚目のアルバムを聞き終えたので、二枚目のアルバムを入れ直した。

すると今度は、また別の歌が流れ出す。

こっちも良い歌ですね。耳に心地良い歌声と旋律。

…すると。

鼻歌交じりに『frontier』の歌を聴いていた、僕のもとに。

「…あれ?小羽根。こんなところにいたんだね」

「あっ…加那芽兄様…?」

突然、音楽室の扉が開いて加那芽兄様が入ってきた。

僕はソファから飛び起きて、急いでリモコンを操作して再生を中断した。

「す、済みません…部屋、勝手に使って…」

てっきり、今日は加那芽兄様は音楽室を使わないものと思っていたものだから…。

「すぐに片付けますね」

「あぁ、いやそうじゃないんだ。小羽根が何処に行ったんだろうと思って、屋敷の中を探してたんだよ」

え、僕を?

「探してたんですか?…えぇっと…何か僕に用が…?」

「うん。今日も仕事で疲れたから、小羽根の可愛い顔を見て癒やされようと思ってね」

成程。つまり何の用もないってことですね。

お疲れなら、僕の顔なんか見てないでちゃんと休んでください。

「それで、小羽根。今何を聴いてたんだい?いつものクラシック音楽じゃないようだったけど…」

「あ、それは…えぇと…」

加那芽兄様に質問されて、僕は返事に戸惑った。

…兄様に『frontier』なんて説明しても、多分知りませんよね…。