結局その日は、学校を出るまで落ち着かなかった。

先生に、「カバンの中を見せなさい」と言われるんじゃないかって。

カバンに爆弾を隠している気分。

運良く誰にも見つからず、僕は無悪のお屋敷に帰宅した。

…何とか、無事に持って帰ることが出来ましたね。

で、これを全曲聴いて…感想を言わなきゃいけないんだっけ。

学校にCDを持ってくるのは論外だけど、それを抜きにすれば、『frontier』なるアーティストの音楽には、純粋に興味がある。

だって、天方部長があれだけ夢中になってるアーティストなんですよ?

それに、僕が知らないだけで、結構有名なアーティストらしいし。

たまには、世の中の流行に乗ってみても良いだろう。

早速僕は、CDの入った紙袋を手に、お屋敷の音楽室に向かった。

防音設備の施されたこの部屋は、元々、加那芽兄様が一人で音楽を楽しむ為の部屋であり。

音楽プレイヤーやスピーカーなどの他に、グランドピアノやバイオリンなんかの楽器も置いてある。

…僕は弾けませんけどね。ピアノやバイオリン…。

ここは加那芽兄様の部屋だから、加那芽兄様以外の人物は勝手に入っちゃいけない…ことになってるけれど。

僕は例外なのだ。

加那芽兄様から、「好きな時に使って構わないよ」とはっきり言われている。

ありがとうございます。有り難く、使わせてもらいます。

「お邪魔しまーす…」

僕は音楽室の扉を開け、室内の照明をつけた。

お借りしますね、加那芽兄様。

えぇっと…ゴム手袋を嵌めて…。

指紋がつかないよう、傷をつけないように気をつけながら、CDを取り出してプレイヤーにセット。

ちゃんとゴム手袋嵌めてますからね。天方部長の言う通り。

再生ボタンを押すと、広い音楽室の中に、天方部長おすすめのアーティスト、『frontier』の歌が流れ始めた。

僕は音楽室のソファに座って、CDに付属していた歌詞カードを眺めながら、その歌を聴いた。