翌日。

ワンチャン、天方部長が昨日言ったことを忘れて、何もかもなかったことになってたら…。

…良かったんですけどね。

「お、来たな後輩君!早速君に、『frontier』の良さを教えてあげよう!」

やっぱり忘れてませんでしたか。…ですよね。

まぁいっか…。天方部長、楽しそうだし…。

落ち込んでるよりずっと良いじゃないですか。ねぇ。

「はい、後輩君。これ貸してあげる」

と言って、天方部長は僕に紙袋を手渡した。

「…これは…?」

「『frontier』のCD」

えっ。

「やっぱり、歌を聴いてもらうのが一番だと思ってさ。自分の持ってる『frontier』のCD、全部持ってきたんだー」

「…」

「サイン入りのもあるから、丁重に扱ってくれよ。ケースを開く時は、指紋がつかないようにゴム手袋を着用してな!」

そんな大事なものなら、安易に人に貸しちゃ駄目ですよ。

…いや、そんなことより。

僕は、恐る恐る紙袋の中身を覗いてみた。

…本当に、CDが入ってる。

これ全部、『frontier』のCDなんですか。そうですか。

弦木先輩と佐乱先輩が、「うわぁ…」みたいな顔でこちらを遠巻きに見ていた。

その気持ちはよく分かります。

「…天方部長」

「おう。何だ?感動したか?」

「あなた、馬鹿なんですか?」

「直球で悪口…!?」

悪口じゃないですよ。

「何でっ?なんか気に障った?あ、もしかして後輩君はCDじゃなくて、サブスクとかで音楽聴くタイプ?それも良いけどさぁ。やっぱり目に見えない音楽データより、形のあるCDも良いとおもっ、」

「そうじゃないですよ。僕だってCDくらい聴きます」

むしろ、僕はどちらかというとアナログ人間なので。

サブスクとか、よく分かりません。使ったこともありません。

そうじゃなくて、僕が言いたいのは。

「…基本的なルールを忘れてるようですね。天方部長、学校にCDなんか持ってきたら駄目です」

「…へ?」

…どうやら、天然で忘れていたようですね。

学校に、不要物を持ってきちゃ駄目なんですよ。

ましてや、CDの貸し借りなんてとんでもない。

…昨日、授業中にスマホを触って没収されたのに…どうやら、ちっとも反省していないようですね。