そう言われたって…仕方ないじゃないですか。

僕は、その…『frontier』とかいうアーティストのことを、全然知らない訳で…。

「え、えっと…そんなに好きなんですか?天方部長。『frontier』さんってグループ…」

「あぁ、好きだね。3度の飯より好きだ」

真顔で言われた。

3度の飯より…それは本当に好きなんですね。

すると、横から弦木先輩が。

「凄いですよ、まほろさんの『frontier』愛は。スマホの画像フォルダ、『frontier』の写真とイラストでパンパンですから」

と、教えてくれた。

「画像フォルダ…?」

「おう。後輩君にも見せてやろうか?自分の自慢の『frontier』画像集」

天方部長はスマホを操作して、僕に見せてくれた。

出るわ出るわ、凄まじい量の画像。

こ、これ全部違う画像なんですか?何枚か同じの混ざってないです?

「何処からこんなに…?」

「ネット漁りまくって、何年にも渡って収集した。すげーだろ?」

ドヤァ。

画像が、と言うより…その執念が凄いですね。

よくこんなに集めたことです。

「ストレージ、パンッパンになってさー。仕方なく、『frontier』画像用のSDカード買い足したんだよねー」

「はぁ…。この女の子ばっかりですね…。えぇっと、さっき言ってた、名前…」

「ベーシュちゃんな。ベアトリーシュ・フェルネフレットちゃん。名前からして超可愛いよな!『frontier』の紅一点!」

天方部長のテンション、急上昇。

よっぽど好きなんですね…。

「まぁ、確かに可愛らしい人ですね…」

画像でしか見てないですけど…。

「だろ?ちょっと天然入ってるところが、また可愛いんだよな〜」

ウキウキ。

「家にもグッズ、めちゃくちゃあるんだぜ。見たい?見たいだろ?」

「え?いえ、別に…」

「しょうがないなー!じゃあ、自分の自慢の『frontier』グッズを…実物は永久保存版で飾ってあるから、写真で見せてやるよ」

僕、見たいなんて言ってないんですけど。

あまりにも天方部長がにこにこウキウキなので、結構ですとは言うに言えない。

弦木先輩と佐乱先輩は、「あー、捕まっちゃったか…」みたいな顔をしていた。

「先輩方…。僕はどうしたら良いんですか…」

助けてくださいよ。

しかし。

「無理ですよ。あのスイッチが入ったまほろさんは…気が済むまで『frontier』について語るまで、話し出したら止まりません」

「ほ、本当ですか…」

「下手な同情は身を滅ぼすんだってこと、学習する良い機会だな」

…そうですか。

つまり、僕はもう逃げられないってことですね。

どうしてこんなことに…。僕はただ、落ち込んでる部長を励ましてあげたかっただけなのに。