「な?頼むから何があったのか詳しく聞いてくれよ。そして同情してくれよ!」

同情まで頼み込んでくるとは。

同情って…頼まれてすることじゃないですよね。普通。

そこは謙遜しましょうよ…。

…でも、僕も鬼じゃありませんから。

「分かりましたよ…。じゃあ聞きますけど、天方部長、何があったんですか?」

「よくぞ聞いてくれた、後輩君」

嬉々として答える天方部長。

聞いてくれたも何も、自分からせがんできたんですけどね。

「…チケット、取れなかったんだよ」

「…それはさっき聞きましたよ」

「『frontier』のライブチケット!逃しちゃったんだよー!」

…この世の終わりみたいな顔になってる。

「えぇっと…。何言ってるのか全然分からないんですけど…。それは何か、大変なことなんですか」

「大事件だよこれは!」

はぁ…。

ちらりと他の先輩方を見ると、どうでも良さそうにそれぞれの作業に没頭していらっしゃるので。

多分、全然大事件でも何でもないと思われる。

「『frontier』のライブチケットだぞ?何ヶ月も前からずっと狙ってたのにー!」

「は、はぁ…。…さっきから何なんですか?『frontier』って」

「え?君、『frontier』知らねぇの?」

何気なく尋ねたら、めちゃくちゃびっくりされて聞き返された。

そ、そんな驚くようなことなんですか?

『frontier』っていうのが何なのかは知らないけど。

ライブ…チケット…というワードから、多分何かのアーティストなのだと思われる。

ライブって、要するにコンサートみたいなものでしょう?

コンサートなら、僕も行ったことがありますよ。

加那芽兄様が連れて行ってくれたんです。

とある楽団のオーケストラ演奏と、それからオペラを観に行った。

ライブっていうのも、きっとあんな感じなんでしょう?

「えっと…天方部長の好きな楽団なんですか?」

「は?何だよ楽団って。『frontier』はバンドだろ」

ば、ばんど?

「『frontier』を知らないのか?本当に知らないのか?」

「そ、そんな驚かなくても…。…知りませんよ」

「君、それでも真っ当な男子高校生か…!?」

…これでも真っ当な男子高校生ですよ。悪かったですね。

そんな、高校生なら誰でも知ってるようなことなんですか?

「…弦木先輩、知ってます?」

試しに、弦木先輩に尋ねてみたところ。

「俺は特に興味無いですけど、まほろさんがよく話すので、一応知ってます」

とのこと。

あ、そうなんですか…。

「ったく『frontier』も知らないとは…。情けない奴め」

「悪かったですね…」

「仕方ない。じゃあ見せてやろう…これが『frontier』だ」

と言って、天方部長は自分のスマホを見せてくれた。