「天方部長…大丈夫ですか?」

「見ろよ、後輩君はこんなに優しいのに。部長を心配してくれるなんて。なんて良い子なんだ」

そ、そんな涙ぐまなくても。

しかし、佐乱先輩は。

「お前が何で落ち込んでたのか理由を聞いたら、小羽根だって愛想を尽かすだろうよ」

冷たく、そう吐き捨てた。

…え。落ち込んでる?

「具合が悪くて座り込んでしまったんじゃないんですか…?」

「違うよ。いやそうなんだけど。別にこの間の後輩君みたいに、貧血と過労でぶっ倒れた訳じゃない」

思い出させないでくださいよ。必死に忘れようとしてる黒歴史を。

「自分はね、とても落ち込んでるんだ…。今日、とてもとても悲しいことが起きて…。ショックで立ち上がれないんだよ」

「そ…そうなんですか…」

それは、その…お気の毒に。

何があったのか分からないけれど、こんなにも酷く落ち込む出来事があったということは。

きっと、とてもショッキングな出来事だったんでしょうね。

「あの…僕に何か出来ることはありますか?部長のお力になれることが…」

「ありがとう、後輩君。君は良いヤツだな」

そんな、感激の涙目で見つめられても。

困っている人がいたら、手を差し伸べるのが人情というものじゃないですか。

「えぇっと…それで、何があったんですか?」

助けるにしても助けられないにしても、何があったのか把握しないことには、何も出来ない。

僕に何とか出来ることなら、

「外れちゃったんだ。チケット」

「………はい?」

この時の僕は、多分相当間抜けな顔をしていたと思う。

何を言うかと思ったら…ち、チケット…?

「おまけに、スマホまで没収されちまってよ。まぁさっき返してもらったけど。あぁ、『frontier』のライブチケット〜!」

天方部長は顔を両手で押さえて、何やら意味不明なことを叫んでいた。

…何だろう。さっきまで凄く心配だったんだけど。

急激に、どうでも良さそうな気がしてきたのは気の所為だろうか。

えぇっと…。

…今更申し訳ないんですけど、さっきまでの話は聞かなかったことにして良いですか?

…よし。話題を変えよう。

「佐乱先輩。最近、デッサンの進捗はどうですか?」

「あぁ。萌音がぬいぐるみのデッサンを描いてくれってせがむから、萌音のお気に入りのナメクジのぬいぐるみを描いてみたんだが…」

「へぇ…さすが佐乱先輩、デッサン上手いですね」

…しかし、何で久留衣先輩はナメクジのぬいぐるみなんか持ってるんだろう…?

ぬいぐるみのデッサンと言うか、ただナメクジのスケッチ描いてるみたいですけど…。

すると。

「佐乱先輩はデッサン、段々上手くなってき、」

「ちょっとぉぉ!自分の話聞いてくれよ!今そういう流れだっただろ!?」

「…」

天方部長が、僕と佐乱先輩の間に割って入ってきた。

…スルーさせてくれませんか。そうですか。