――――――中間試験が終わり、全国模試も終わって、しばらく経った頃。

とある日の放課後、部室である調理実習室に向かうと。




「失礼しま…うわっ…」

「…」

「それ」を目にするなり、僕はびっくりしてその場に立ち尽くしてしまった。

な、何がいるのかと思った…。

そこにいたのは、調理実習室の床に蹲って、ずーん、と暗いオーラを発する…。

「あ…天方部長…?」

「…」

芸術研究部の部長である天方部長が、死んだような顔で床に蹲っていた。

どうしたんだろう。こんなこと初めてだ。

だ、大丈夫だろうか?

「ど…どうしたんですか?」

僕は、慌てて天方部長に駆け寄った。

この間の僕みたいに、貧血でも起こしたのだろうか。目眩とか?

それとも…持病の発作か何か?

この時僕は、てっきり天方部長が体調を崩して、床に蹲っているのだと思っていた。

…だから。

「ねぇねぇ、李優、見てー。上手でしょ?」

「ん?あぁ、そうだな…。って、それは何の絵なんだ?」

「えっとね、李優がカピバラに襲われてる時の似顔絵」

「…何で俺、カピバラに襲われてんの?」

「ライオンやトラではなく、敢えてカピバラというところに萌音さんのセンスを感じますね」

「えへへー」

久留衣先輩や佐乱先輩、弦木先輩が、自由帳を囲みながら、あまりにも呑気に話しているのを見て。

この人達は、今の天方部長の状態が目に入ってないのかと、信じられない気持ちになった。

眼の前で天方部長が、こんなに具合が悪そうにしてるのに。スルーなんですか?

それは、あまりにも薄情というものなのでは?

久留衣先輩は、クーピーで描いたカピバラに襲われる佐乱先輩の似顔絵を、自慢げに披露していた。

相変わらず上手いですね。でも、今はそれどころじゃないでしょう。

「せ、先輩方。何をやってるんですか?」

僕は、呑気にお喋りする久留衣先輩達に声をかけた。

「何って…。萌音さん画伯の作品を見てます」

そ、そうですか。

「そんなことしてる場合じゃないでしょう。だって、天方部長が…」

こんなに具合が悪そうに蹲ってるのに、よく無視して似顔絵なんか眺めていられますね。

この間の僕じゃないけど、すぐに保健室に連れて行って、

「何か誤解しているようですね、小羽根さん」

と、弦木先輩。

…え?

「別にその人は、体調が悪くて蹲ってる訳じゃありませんよ」

「え、」

「自業自得なので、放っておいて結構です」

じ…自業自得って、それはどういう…。

「…君ら、薄情だな。部長に対する優しさはないのか?」

ずっと黙っていた天方部長が、低い声で呟いた。

あ、口利いた…。