「…それで?作ったピザは何処だよ?」

「…そこ」

久留衣先輩が、なおも異臭を放つゴミ袋を指差した。

…身も蓋もない。

「食材の無駄遣いしやがって…」

本当ですね。

もっと早く止めてくれたら…。

「…はぁ…。まぁ良い。それでもう一つ聞きたいのは…」

「おぉ、何だ何だ。何でも聞いてくれ」

「…そいつは誰だよ?」

と、改めて、佐乱先輩は僕を指差した。

「後輩君。その辺で拾ってきた」

そんな…道端で捨てられてた子猫みたいに…。

「あのなぁ…。落ちてるもんを妄りに拾ってくるなっていつも言ってるだろ」

別に僕は、その辺に落っこちてた訳じゃないですよ。

そんな…道端に投げ捨てられてた空き缶みたいに…。

「でも、萌音達のこと助けてくれたよ」

「そうそう。率先して、惨劇と化したオーブンの中を掃除してくれましたし」

「将来有望だぜ、こいつは」

久留衣先輩と、弦木先輩と、天方先輩が順番に言った。

何の将来を期待されてるんですか。僕は…。

「あ、そう…。…まぁ、何だ。悪かったな手伝わせて」

佐乱先輩が、そう言って僕を労ってくれた。

「あ、いえ…。大丈夫です…」

そう言うしかない。先輩相手だし…。

「名前、なんて言うんだ?」

「無悪です…。無悪小羽根…」

「ふーん、小羽根か。良い名前だな」

ありがとうございます…。

「…もしかして一目惚れですか?」

何言ってるんですか弦木先輩。

「なワケないだろ」

「そうそう。李優は萌音ちゃんにべた惚れだからなー」

と天方先輩が言うと、久留衣先輩が嬉しそうに、

「萌音も李優のこと大好きだよ」

「あー、はいはい。どうも…」

…えぇっと、僕に分からない会話をするの、やめてもらって良いですか。

置いてけぼり感が凄いんだけど…。

「後輩君。さかなし…は無に悪で、こはね、って漢字なんて書くの?」

「え?えぇと、普通に…小さい、羽根、って…」

「ほーん」

天方先輩は、何やら用紙にさらさら、と書いていた。

…何書いてるんだろう?

「李優君、悪いんだけど、今度はこれ提出してきてくれ」

「あー?…またかよ。はいはい…」

天方先輩から書類を受け取って、溜め息混じりに佐乱先輩は調理実習室を出ていった。

…行っちゃった…。

何処行ったんだろう…。

…ん?

「…」

「…?どうしたの、小羽根君」

久留衣先輩が、くるりとこちらを向いた。

…その時になって僕は、ようやく大切なことを思い出した。