「ごめんなさい…。僕、加那芽兄様のようになれなくて…」

項垂れて謝りながら、あまりの情けなさに涙が出そうだった。

…しかし、加那芽兄様はそんな僕を見て、怒るでも呆れるでもなく。

優しく、ぽんと僕の頭に手のひらを乗せた。

「…困った子だね、小羽根は。そんなこと、私が一度でも望んだことがあったかい?」

…え。

「私を倣う必要などないと、何度も言ったはずだよ。小羽根には小羽根の、私にはない優れたところがたくさんあるんだから」

「で、でも…。僕の優れたところなんて…。皆、加那芽兄様の方が遥かに優れてるって、」

「それはそう言ってる奴らの目が節穴なだけだよ」

加那芽兄様。お口が悪いですよ。

ふ、節穴って…。

「良いかい、何事も一生懸命に、ひたむきに努力するのは小羽根の長所だ。でも、その為に頑張り過ぎて身体を壊したんじゃ、何の意味もない。分かるね?」

「は、はい…」

「何より、小羽根に何かあったら心配で、私の心臓が持たない」

加那芽兄様、真顔。

…分かりました。痛いほどに。はい。

「お願いだから、もう無理はしないでくれ。成績だの、順位だのはどうだって良い。私はただ、小羽根に毎日元気で、笑顔で過ごしてくれれば、それが一番幸せなんだよ」

そう言って、加那芽兄様は心配そうな顔で僕の頭を撫でた。

その表情を見て、いかに自分が愚かだったかを痛感した。

こんなにも自分のことを心配してくれる人がいるというのに、僕と来たら…。

「…はい。…ごめんなさい、加那芽兄様…」

心から申し訳なくて、僕はしゅんとして謝った。

「反省しているなら良いんだよ。ただし、次はないからね?」

「はい…」

「よろしい」

加那芽兄様は、ふっと微笑んだ。

そして、再び僕をベッドに横たわらせ。

おもむろに、小さな子供にするように、僕の手をぎゅっと握った。

「それじゃあ、ゆっくり身体を休めなさい。起こして悪かったね」

「いえ…。あの…」

…それは良いんですけど。

「?どうかしたかい?小羽根」

話は終わったはずなのに、一向に立ち去る気配のない加那芽兄様。

当たり前のように、僕の手を握ったままである。

「…もしかして、ずっと居るつもりですか?」

「当然だよ。眠ってる間に、小羽根の容態が急変したらどうするんだい?片時も目を離すつもりはないよ」

容態が急変って。病気じゃないんですから、そんな心配は要りません。

…そういえば、加那芽兄様は昔からそうだった。

僕がほんのちょっと体調を崩しただけで、大騒ぎして。

感染るのも構わず、片時も離れずにベッドの傍らにいて、あれこれと世話を焼いてくれた。

いくらなんでも大袈裟…と言いたいところだったが。

今回ばかりは自業自得なので、僕としては何も言えない。