すると、眉間に皺を寄せていた僕に気づいたのか。

「おいおい、後輩君。そんなしかめっ面してどうしたよ?」

と、馴れ馴れしく笑顔で話しかけてきた。

済みません。ちょっと…リア充爆発してくれないかなと思ってました。

それから…。

「ちょっと…放っといてください。今、問題を解いてたところで…」

「どれどれ?…うげっ、何だこの問題。むっず…!全然分からん」

僕の手元を覗き込んだ天方部長は、問題集の設問を見て声をあげた。

分からんって…。これ一年生の範囲ですよ。あなた二年生じゃないですか。

「こんな難しい問題、後輩君、分かるのか…?」

「…分からないから、今考えてるんじゃないですか…」

「ちょっと待って下さい。ここは俺が鉛筆を転がして…。…はい、そこの答えはcですね」

弦木先輩が鉛筆を転がして、答えを教えてくれた。

ありがとうございます。結構です。

しかも。

「すげぇ。唱君、マジで合ってるぞ」

天方部長が、問題集に付属していた模範解答を確認したところ。

本当に、この問題の答えはcだった。

弦木先輩の鉛筆転がしの的中率、凄い。

「凄いね、唱君。本当に合ってるなんて」

「でしょう?俺は鉛筆コロコロだけで試験を生き抜いた男ですから。貫禄が違いますよ」

ドヤァ。

「わー。すごーい、唱君。萌音も見習わなくちゃ」

「…見習わんで良い」

ボソッ、と佐乱先輩が呟いていた。

…なんてくだらないやり取りだろう。

結局この問題、自分で解かせてもらえなかったし…。答え、cなんでしょう?

勉強の邪魔ですよ。邪魔。

「…はぁ…」

「小羽根君、おっきい溜め息だ」

そりゃ溜め息つきたくもなりますよ。

「遅々として進まないんです…。問題集の、ノルマが…」

「ノルマなんて決めてやってんの?…難易度高過ぎるんじゃね?」

と、天方部長。

今となっては…確かにちょっと難し過ぎたかな、と弱気になってるけど…。

「難しい問題に取り組まなきゃ、訓練にならないじゃないですか」

簡単な問題ばかり解いていたんじゃ、全然力がつかない。

「そうかもしれないけどさー…。…なんか後輩君、やつれてね?」

…え?

「それ、俺も気になってました。顔色悪いですよね」

天方部長のみならず、弦木先輩まで。

そんな…。やつれてなんか…。

「お前、勉強するのは良いけど、ちゃんと寝てるのか?」

佐乱先輩まで、そんなことを聞いてくる。

「ね…寝てますよ」

「へぇ?ちなみに、昨日は何時に寝た?」

「昨日は…深夜の2時過ぎに…」

「わー。萌音だったら、とっくに寝てる時間だ」

久留衣先輩は、寝るの早そうですもんね。

「おそっ…!そんな時間まで起きてたのかよ」

「き、昨日はちょっと…なかなかノルマが終わらなかったから、長引いただけです。いつもは、もう少し…」

「で、起きたのは何時なんだ?」

「…5時半…過ぎに」

起きて、早速今日のノルマの分に取り掛かってました。

眠かったけど、そうしないと終わらないから。

「はやっ…!全然寝てねーじゃん!」

「だ、大丈夫ですよ。3時間ちょっとは…寝てますから」

「3時間しか、の間違いだろ?日中倒れるぞ。そんなんじゃ」

うっ…。

言い返せない。最近、睡眠不足のせいだろう。日中の授業中、ほぼずっと睡魔と戦っている状態なのである。