…とりあえず。

これはもうどうすることも出来ないので、オーブンの中身は全部、ゴミ袋の中に突っ込んだ。

新聞紙で何重にもくるんで、紙袋に二重に入れて、大きなゴミ袋を三重にも包んで捨てた。

それでもまだ異臭を放っている有り様だから、どれだけこの匂いが強烈か、分かってもらえることだろう。

それから、四人がかりでひたすら、オーブンの掃除。

雑巾を4枚くらい犠牲にして、ようやく、オーブンの庫内にこびりついたゲテモノの残り滓を取り除いた。

汚れは取れたけど、果たしてこのオーブン、再び稼働出来るのだろうか。甚だ疑問である。

…って、何で僕がそんな心配してるの?

「はー、やれやれ綺麗になった。一件落着だなー」

「意外と何とかなるもんですね」

「最小限の被害で済んで良かったねー」

で、先輩達は何で、何事もなかったみたいな顔してるの?

勝手にそんな、めでたしめでたし、みたいな雰囲気にしないで。何もめでたくないから。

ツッコミ所がいっぱいあり過ぎて、もう何処からツッコんで良いのか分からない。

…僕は一体何をさせられたんだ?

それと久留衣先輩。僕の犠牲は被害のうちに入らないんですか?

すると、そこに。

「…何なんだこの匂いは?お前ら、何やってるんだ?」

また新たな人物が、調理実習室の扉を開けてやって来た。

えっ。だっ…誰?

「おー、李優君。お帰り」

と、天方先輩が片手を上げて気さくに挨拶した。

「俺達と同じ二年生で、Aクラスの佐乱李優(さみだれ りゆう)さんです」

困惑している僕に気づいてか、弦木先輩がそう教えてくれた。

そ、そうなんですか…。もう一人いたんだ…。

もうちょっと早く来てくれれば…この惨状を一緒に片付けてもらえたのに。

「提出してきてくれた?アレ」

「あぁ。提出してきたよ」

「さんきゅー」

…アレ?って、何だろう。

「で、お前ら一体何やってたんだ?この匂いは何で、そこに居るのは誰だ?」

佐乱先輩は、三重に包まれたゴミ袋と、その傍らに立つ僕を指差した。

「ピザ作ってたんだよ。パイナップルのピザ」

「は?ピザ?」

「そう。やっぱり料理研究部たる者、ピザくらい生地から作れなきゃ格好つかないだろ、って、まほろ君が」

「で、どうせ作るならパイナップルを乗せた夢のデラックスピザを作ろう、ってことで、こうなりました」

「ばっ…」

佐乱先輩は額を押さえて、呆れ返って天を仰いだ。

僕が見たのは…夢のデラックスピザとは程遠い何かだったよ。

「お前ら、この…!俺のいない間に勝手に料理すんなって、何度も言ったろうが…!」

「だって、イケると思ったんだもん。なぁ萌音ちゃん」

「萌音は李優がいた方が良いんじゃないかと思ってたけどね」

「同じく」

「ちょ、お前ら!部長を裏切るんじゃない!」

…天方先輩って、部長だったんだ。

部長が率先して無謀なピザ作りに挑戦するって…良くないことだと思うな…。