…加那芽兄様が訪ねてきた、数時間後。

すっかり日が暮れてしまってからも、僕は相変わらず、問題集と睨めっこしていた。

数学は無事に終わったので、今は化学のおさらいをしている。

…すると、今度は別の人物が訪ねてきた。

「小羽根坊ちゃま。お邪魔します」

「あ…志寿子さん…」

お屋敷の使用人である志寿子さんが、心配そうな顔でやって来た。

「まだ起きていらっしゃったんですか?こんな時間まで…」

「は、はい…。ちょっと…勉強してて」

「まぁ…。試験はもう終わったんじゃなかったんですか?」

「そうなんですけど…。模試を受けることにしたので…」

「夕食も摂っていらっしゃらないんでしょう?いけませんよ、そんなことでは…。勉強するのも結構ですけど、休む時はちゃんと休まなくちゃ」

す、済みません。

でも、無理するのは今だけなので…。

「加那芽坊ちゃまが落ち込んでいらっしゃいましたよ。小羽根坊ちゃまにディナーの誘いを断られたって…そりゃあ悲しそうに…」

「そ…それは本当に申し訳ないんですが…」

「悲しそうに…メロンパンを齧っていらっしゃいました」

…本当に菓子パン齧ってたんですか?

「小羽根坊ちゃまも、何か召し上がった方が良いですよ。お夜食でも用意しましょうか?」

「あ…ありがとうございます」

「良かった。すぐに持ってきますからね。…あんまり夜更かしをしちゃいけませんよ」

加那芽兄様といい、志寿子さんといい…心配してくれるのは有り難いんですけど。

許して欲しい。三週間後の試験が終わるまでは。

全力を尽くして、やれることは全部やった上で、今の自分の実力を把握したいんです。

その為には…気を抜いている暇はない。






…その後、志寿子さんが夜食のおにぎりを持ってきてくれたので。

勉強しながら、片手でいただきました。

「食べたら休んでくださいね」と念を押されたけれど、僕は曖昧に頷いただけだった。