部活の時間だというのは、百も承知。

しかし、今は見逃して欲しい。

「…貴様!我らは誇り高き芸術研究部だぞ?部活の時間に芸術を研究せず、数学の宿題をやるとは良い度胸だな!」

突然、烈火のごとく怒り出す天方部長。

その怒りは当然なんですけど、でもこれ、宿題じゃありません。

「す、済みません。見逃してください。宿題ではないんです。自主勉強で…」

「いーや!見逃すことは出来ないね!貴様には、誇り高き芸術研究部としての自覚がないのか!?」

「…誇り高きって言われてもな…。つい先月までは料理研究部だったのに…」

ボソッ、と呟く佐乱先輩。

こうもコロコロ部活が変わったんじゃ、誇りを持つ暇もありませんよね。

「こらっ!李優君!聞こえてるぞ」

「はいはい、悪かったな」

「自分らは芸術研究部なんだぞ。部活の時間に芸術を研究せず、何やってんだ!」

数学の自主勉強です。済みません。

「そうは言いますけど、この間まで俺やまほろさんだって、部活の時間にレポート課題やってたじゃないですか」

確かに。弦木先輩、良いこと言いますね。

「なら、小羽根さんが数学の勉強をしてても文句は言えないのでは?」

「うぐっ…。そ、それはまぁ…確かに」

納得しちゃうんですか。

ともあれ、先輩方のフォローのお陰で、天方部長の怒りは鎮まったようだ。

ありがとうございます。

「…でも、宿題じゃないなら、何で勉強してるの?試験はもう終わったよ?」

と、久留衣先輩。

…宿題じゃなくても試験じゃなくても、勉強はしましょうよ。久留衣先輩…。

「そうですけど…。僕はその…模試を受けることにしたので」

「あ、そっか…」

「模試の日まで、勉強に集中するつもりなんです」

部活の時間を、勉強に費やしているのもそれが理由である。

先日の中間試験は、自分では充分勉強したと思っていたけれど。

振り返ってみれば、放課後の貴重な時間を部活で浪費し。

あろうことか、家に帰ってからも、加那芽兄様と優雅にティータイムを楽しんだり。

夜だって、勉強はしてたけど、日付が変わる前には休んでいた。

朝も、特に早起きすることもなく、いつも通り起きてたし…。

結構、時間を無駄遣いしてるんですよね。

もっと上手く時間を使えば、勉強出来る余地があると思うんだ。

そこで僕は、自分の一日のスケジュールを徹底的に見直し。

全国模試の当日まで、一切時間を無駄にせず、勉強することにした。

ここまでやれば、凡人の僕でも、そこそこ上位に食い込めるんじゃないかと思う。

そりゃ、さすがに加那芽兄様のようには行かないけど…。

「ほぇー…。凄いね、いっぱい勉強して。偉い偉い」

「…ありがとうございます…」

「でも、勉強ばっかりしてたら、頭にキノコが生えちゃうよ。たまには休まなきゃ駄目だよ」

「は、はぁ…」

…頭からキノコって、どういう意味ですか?久留衣先輩…。