…さて、週明けの月曜日。放課後。

部室にて。




「じゃーん!見てこれ、自分の傑作!」

「…何なんですか?まほろさん。それ…」

「見ての通り。イモ!」

天方部長は、自慢げに。

半分に切ったイモ…サツマイモを、印籠のように掲げてみせた。

「…はぁ。とうとう頭でもおかしくなりました?」

「ちょ、唱君!?辛辣じゃね!?」

「ドヤ顔でイモを掲げてたら、誰でもそう思うでしょう」

…確かに。

「まほろ君。それなーに?おイモ?」

こてん、と首を傾げて尋ねる久留衣先輩。

よくぞ聞いてくれたとばかりに、天方部長は胸を張って答えた。

「これはただのイモじゃない…。なんと、手作りのイモ版だ!」

…とのこと。

…はぁ、イモ版。

「イモ版ってなーに?李優、知ってる?」

「あぁ…。イモを判子みたいに彫って、墨とか絵の具をつけて紙に押すんだよ。幼稚園で作らなかったか?」

ご丁寧に答えてあげる佐乱先輩である。優しい。

確か僕は…小学校一年生の時の図工の時間に作った記憶があります。イモ版…。

食べ物を使うから、何だか勿体ないなぁと思ったのを覚えている。

…って、そんな余所事考えてる暇はない。

しかし、そんな僕をよそに、先輩方は呑気なもので。

「で、何でイモ版なんですか?」

「何でって…。これまで、色んな芸術に挑戦してきたけどさー。何だかんだ、後輩君とか唱君とか李優君にケチばっかつけられたじゃん?」

…抽象画と水墨画と俳句のことですか?

僕は別に…ケチをつけた訳じゃ…。

「彫刻は何も言ってないでしょう。木彫りのクマはどうなったんですか?」

「あぁ、あれ?うっかりクマの首がもげちゃって、心折れた」

こけしといいクマといい、部長の彫刻は必ず首がもげるんですね。

可哀想に…クマ…。

「イモなら大丈夫だろうと思って、イモ版作ってみたんだぜ。ちょっと見てくれよ」

「わーい。おイモだ。これ、何を彫ったの?」

「おっ、よく聞いてくれた萌音ちゃん。部員全員の出席番号と名前を彫ったんだぜ」

え、それ僕もあるんですか?

「ほんと?萌音のもあるの?」

「あるある。漢字彫るのムズいから、全部ひらがなだけどな。…ほいっ、これ萌音ちゃんの」

「やったー。見て見て、李優。おイモに名前彫ってもらったよ。もね、って」

「はいはい、良かったな」

さながら保護者のようですね。佐乱先輩。

「押してみても良い?」

「勿論、どうぞどうぞ。自分の傑作を見てく、」

「わーい。ペタッ…。…あれ?」

…あれ?

意気揚々とイモ版を紙に押してみたところ、久留衣先輩はきょとんと首を傾げていた。