とても…美味しそうな匂いだとは思えないんですが。

加那芽兄様…。いくら世界が広いとはいえ、僕はやっぱり…こんなピザは嫌です。

「…それ、本当にピザなんですか…?」

「ピザだよ、失礼な。ちゃーんとレシピ通り作ったんだから。なぁ唱君」

「はい。…理論上は」

り、理論上?

料理に理論って必要だったっけ…?

「萌音も、今回は上手く行ったと思ったんだけどな」

「だよなー萌音ちゃん」

今回「は」?

ってことは、以前はもっと…酷い出来だったってこと?

「それなのにさぁ、なんか人外魔境みたいな匂いがオーブンから漂い始めたもんだから…」

「…そうですね…」

「やべぇ!誰でも良いから助っ人を呼ぼう!って思って…廊下を歩いている後輩君を見つけた」

僕が連行されたのは、そういう経緯だったんですか。

ようやく理解したけど、でも納得は出来ない。

「ってな訳だ後輩君。何とかしてくれ」

「そ…そう言われても…」

僕に何とか出来るものなら、そうしたいですけど。

「それ」はもう、僕が何とか出来る範疇を超えている気がする。

まず…一番にやるべきことと言ったら…。

「えぇっと…まず…窓を開けましょう」

僕は、調理実習室の窓を全部、全開にした。

これで、少しでも匂いを外に出そうという作戦。

その上で。

「…」

内心、酷く怯えながら。

僕は、そうっとオーブンのドアハンドルを掴み、恐る恐るオーブンを開けてみた。

そこから、異臭を伴う黒い煙が、もわっ、と飛び出してきた。

うぇっ。

思わず目と鼻と口を覆いそうになった。

酷い。これは酷い。

オーブンの中から出てきたのは、どろどろに液状化した、何やら酸っぱい匂いのするゼリー状の固形物と。

真っ黒に焼け焦げた、薄く丸い円盤状の…ぐにゃぐにゃの段ボールっぽいもの。

…僕の語彙力では、この表現で限界だよ。

そして、鼻を刺すような強烈な匂い。

鼻が…鼻がねじ曲がる。

「すげーなこれ。殺人級じゃね?匂いで人が殺せるなら、五、六人はやれるぞ」

天方先輩。感心してる場合じゃありません。

窓を開けておいて正解だった。密室だったら、オーブンの近くにいる僕が真っ先に犠牲者になっていたところだった。

…うぇ。