「何か…新聞紙とかないんですか?」

「新聞紙だって。李優君、新聞紙持ってない?」

「持ってねーよ…。職員室でもらってこないと無理かもな」

と、佐乱先輩。

…まぁ、普通、鞄の中に新聞紙を持ち歩いたりはしませんよね。

「新聞じゃなくても、要らない紙を敷けば良いんじゃないですか?」

弦木先輩が言った。

「あぁ、そっか。じゃあ、えーっと…。…昨日返ってきた試験の解答用紙でも使うか」

「…それは駄目でしょう…」

「え、駄目?じゃあ…これでも使うか」

と言って天方部長は、何かの申込用紙みたいなものを、ファイルから取り出した。

…?あれは…?

「あ、それ萌音ももらったよ。帰りのホームルームで配られたプリントだよね」

久留衣先輩も、同じ用紙を鞄の中から取り出した。

「萌音も要らないから、これ敷いて良いよ」

「おぉ、さんきゅー」

軽い調子で答えて、天方部長はその用紙をテーブルに敷いた。

何気なく、その用紙に視線をやると…。

「えっ…。それ…全国模試の申し込み書じゃないですか」

『○年度 ○大学第一回全国模試申込用紙』と書いてある書類を。

あろうことか、彫刻の木くず受けに使おうとしている。

絶対駄目ですって。使う紙間違ってますよ。

「え?うん。そうだけど」

それなのに、久留衣先輩も天方部長も、それがどうしたと言わんばかり。

いや、そうだけど、じゃなくて…。

「申し込み…するんじゃないんですか?その用紙で…」

「?しないよ?」

えっ?

「申し込みするつもりでもらってきたんじゃないんですか?」

「あぁ、そういう訳じゃないんですよ。申し込み用紙はクラス全員に配られたんですけど、受けるか受けないかは自由なんです」

と、弦木先輩が教えてくれた。

あ、そうなんですか…。

受験の有無に関わらず、「こんな模試が行われるから良かったら受けてみろ」という意味で配布されたんですね。

「久留衣先輩…天方部長も、模試受けないんですか…?」

「定期試験がようやく終わったばっかだっていうのに、何で自ら望んでまたテスト受けなきゃいけないんだよ」

口を尖らせる天方部長。

そ、そう言われても…。

「でも…う、受けた方が良いから配られたのでは?」

「2年生になったら、似たような模試の申し込み用紙がいっぱい配られるんだよ。受けたい人は受けてるみたいだけど」

「そうなんですか…。…久留衣先輩は受けないんですか?」

「うーん。李優、受ける?」

「いや、俺は別に…」

「じゃあ萌音も受けなーい」

佐乱先輩が受けないから、自分も受けないらしい。

…そんな軽いノリで決めちゃって良いんですか?人は人、自分は自分じゃないですか。