彫刻…彫刻ですか。

よくよく見たら、天方部長が手に持っている、小さなナイフ。

あれ、彫刻刀だ。

懐かしい。確か小学校の図工の授業で使ったなぁ…。

「今度は彫刻なんですね…。…俳句はもう飽きたんですか?」

「俳句?楽しかったけど、後輩君に正論砲ぶちかまされたからさー」

僕のせいなんですね。済みません。

「次は何しよっかなーと思って。そういや試験前に現実逃避で本棚掃除してた時に、小学校の時に使ってた彫刻刀を見つけてさ。次はこれだ!って思ったんだよねー」

「成程…」

それは…まぁ、良かったですね。

「…で、それは何を彫ってるんですか?」

天方部長の手元には、横長の木材が握られていた。

それ…彫ってるんですよね?

「クマだよ。鮭咥えたクマ」

とのこと。

お土産で定番のアレですね。木彫りのクマ。

僕も見たことあります。

「やっぱり、彫刻と言えばアレだろ?」

「は、はぁ…。天方部長、彫刻の経験なんてあるんですか…?」

「そうだな…。小学校の図工の時に、彫刻キットでこけしを彫ったくらいかな」

そ、そうですか。

それは経験のうちに入るんですか?

「すげー力作のこけしでさー。間違いなく、クラスで一番良い顔したこけしを彫ったと自負してるよ」

「そうですか…。上手なんですね」

「まぁな!…まぁ、そのこけし、首を細くし過ぎて首が折れたんだけど…」

ちょっと。今、後半なんて言いました?

それは失敗作なのでは?

首の折れたこけし…。怖っ…。

「あの時の経験を活かして、今度はクマを彫るぞー」

「…」

…そのクマ、ちゃんと頭と胴体くっついてますよね?

…あぁ、もう良い。いちいちツッコむのが馬鹿らしくなってきた…。

天方部長の好きにさせておこう…。

…それよりも。

「…こけしでもクマでも、好きなものを彫れば良いと思いますけど…。天方部長」

「あ?何?」

「せめて、作業台に何か敷きましょうよ…。木くずが床に落っこちてますよ」

彫刻刀で彫った木くずが、机や床にポロポロと散らばっている。

そのままにしておくと、後で掃除するのが大変ですよ。