「ただ…ちょっと、その…食欲がないだけです」

「…!具合でも悪いのかい?…そういえば、あまり顔色が良くないね」

と言って、加那芽兄様は僕の額に手のひらを当てた。

「熱…はないようだけど、風邪かな?何処か痛い?」

「大丈夫です…」

風邪じゃあない。原因はちゃんと分かっている。

全ては、自分の不甲斐なさ故なのだ。

しかし、そのことを加那芽兄様に打ち明ける訳にはいかなかった。

「少し…疲れてるだけです。一晩休めば治りますから…」

「…小羽根…」

「ドーナツは、明日いただきますね。今日はもう…休むことにします」

加那芽兄様には申し訳なかったけど、僕はそう言って、強引に話を終わらせた。

加那芽兄様は困惑したような戸惑ったような、何か言いたそうな表情をしたが…。

「…分かった。おやすみ、小羽根」

僕を気遣ってくれたのだろう。

僕の頭を手のひらで撫でて、優しくそう言ってから。

名残惜しそうに、僕の部屋を去っていった。

「…ごめんなさい、加那芽兄様…」

僕は誰にも聞こえないように、小さくそう呟いた。

…加那芽兄様の足元にも及ばない不甲斐ない弟で、本当に申し訳なかった。