「ぼ、僕に何の用ですか?それに…この、変な匂いって…」

「変な匂いって言うな。…これはピザの匂いだ」

ぴ…ピザ?
 
って…イタリア料理の…生地の上にチーズやベーコンやサラミが乗ってる、あのピザですよね?

…僕の知ってるピザとは、全く匂いが違うんだけど。

物凄く…こう…焦げ臭いような…酸っぱいような…饐えたような匂いがする。

およそ、食べ物の臭いとは思えないんですが。

「え、えぇっと…。何処に、ピザが…?」

ピザらしきものは…いや、そもそも食べ物らしきものが全く見当たらないんだが。

「あそこだ」

天方先輩が指差した先に、視線を移すと。

そこには、黒いタッチパネル式のオーブンがあった。 

そのオーブンの中から、ズモモモ…と怪しい、黒っぽい煙が出ていた。

…戦犯、発見。

匂いの元は…あれだったか…。

賭けても良い。あのオーブンの中に、僕の知ってるピザは入ってない。

きっとこの人達の常識では、僕の知らない「ピザ」が存在するんだろう。

驚くべきことじゃない。

前に、加那芽兄様の書庫にある本で読んだことがある。

世界には様々な奇食の文化があって、自分にとっては「気持ち悪い」と思う生き物でも。

海外では、とても美味しい食材だったりすることもあるらしいから。

昆虫食なんか、良い例だよね。

きっとそれと同じで、僕にとってはゲテモノでも、天方先輩達にとっては美味しそうなピザ…。

…。

…だとは、到底思えないんだけど。

異文化どころか、そもそも人間の食べ物の匂いがしない。

「そんなドン引きした顔をするなよ、後輩君」

「あ、す、済みません…」

天方先輩にジロッと睨まれてしまった。

つ、つい本音が…。

「良いか?あれは…そう、夢のあるピザなんだ。夢の国由来の、超美味しい夢のピザ」

「ゆ…夢の国、ですか…?」

僕行ったことないんだけど。夢の国って何ですか。

そこには、そんなゲテモノピザがあるんですか?

「そう。聞いたことないか?…パイナップルのピザ」

「あ…」

…そういえば、前に加那芽兄様に教えてもらったことがある。

世の中には、パイナップルを乗せたピザが存在するのだと。

加那芽兄様に聞いた時は、全然美味しくなさそうだと思ったものだが。

「酢豚にだってパイナップルが入ってるんだから、ピザの上に乗っていても、合わないことはないんじゃないかな」と加那芽兄様に言われ。

確かにそうかも、と納得したことを覚えている。

へぇ、成程。そのパイナップルピザを再現してみたんですね。

…で、これがその匂いですか?