「確かに試験は大切だよ、小羽根…。日頃の勉強の成果を発揮する、一学期に二回しかない貴重な機会だ。それは私も認める」

「はい」

「しかしよく考えてみると良い。私と一緒にいちご大福を食べながらお茶を飲む機会…。この機会は、果たして一学期に二度もあるだろうか?」

…あるんじゃないですか?

「その気になれば、一週間に一度でも可能だと思いますけど」

「ただのいちご大福じゃない。この老舗和菓子店のいちご大福だよ。これを一緒に食べる機会なんて、今日を逃したら、もう何年もないかもしれない」

「…」

それはまぁ…そうかもしれないけど…。

さっきから何だか、まるで世界三大珍味並みに貴重な食べ物のように言ってますけど。

いちご大福ですよ?

…いちご大福って、そんなに貴重な食べ物でしたっけ?

「別に…買いに行けないほどの距離ではないでしょう?」

確かに老舗和菓子店の人気商品とはいえ…少し足を伸ばせば、比較的用意に入手可能なはず…。

「甘い、小羽根。君の考えは甘いよ。いちご大福のように」

「は、はぁ…」

「一ヶ月後、半年後、来年、あの和菓子屋が今と同じように営業している保証があるかい?」

そ、そう言われたら…。

「来年のことは分かりませんけど…。さすがに一ヶ月後は営業しているのでは…?」

「それは分からないよ。突然、経営者が亡くなったら?銀行が倒産して融資が止まったら?従業員が総じてストを起こして生産ストップしたら?原材料の生産地で大地震が起こって材料が手に入らなくなったら?」

「…そ…!そこまで考えますか…?」

「あぁ、考えるよ。取り引きする企業を選ぶ時は、ありとあらゆる可能性を考慮に入れて、常に最善を選択するのが、グループ代表代理としての大事な使命だからね」

さすが加那芽兄様。無悪グループの未来を背負って立つ御方。

考え方が、僕のような素人とは大違い…。

…だけども。

「そういう訳だ、小羽根。この貴重な機会を逃してはいけない。…私と一緒にいちご大福を食べよう」

あれこれ言いながら、結局一緒にいちご大福を食べたいだけでしょう?

「…それとこれとは、別の話では?」

「それじゃあ私は先に中庭に行ってるから、着替えてからおいで」

ちょっと。僕「良いですよ」とか一言も言ってない。

…仕方ない。もう、分かりましたよ。

折角加那芽兄様が買ってきてくれたものだから、有り難くいただきます。