いちご大福の為に、わざわざそこまでするとは…。

凄い執念ですね。

「よく、運良く近くのホテルが空いてましたね…」

「あぁ。無悪グループの系列ホテルに泊まったからね。私が顔を出したら、すぐに部屋を用意してくれたよ」

「…」

…加那芽兄様。それは職権乱用です。

「そんな…たかがいちご大福の為に…そこまで…」

「当然だよ。このいちご大福一つの中に、小羽根の笑顔が詰まってると思ったら、大粒のダイヤモンドよりも価値があるだろう?」

さすがに、いちご大福にそこまでの可能性はないと思います。

この人…自他共に認める天才なのに、どうしてこういうところだけは、理性の欠片も感じないのだろう。

「さぁ、小羽根。一緒に午後のお茶を楽しもうじゃないか」

「…申し訳ありませんけど、僕にはお茶をする時間はありません」

「!?」

加那芽兄様は、愕然として立ち尽くした。

…済みませんね。

「こ、小羽根が私の誘いを断るなんて…!ついに…これがついに…世に言う…反抗期なのか…!?」

「…何を言ってるんですか」

そういうことじゃありません。

「すぅー。はぁー…。落ち着け大丈夫だ。例え反抗期だろうと、私は無限の愛で小羽根を包んでみせる…」

本当に何を言ってるんですか。

「さぁ、小羽根!思い切り反抗すると良い」

「…違いますよ。別に反抗するつもりはありません」

「…それなら、どうして?私の持つ…小羽根はいちご大福が好きだったはず…。『小羽根の好きなものリスト』に書いてある」

加那芽兄様は上着のポケットから、謎のメモ帳を取り出して確認していた。

…何ですか。その世界一何の役にも立たないリストは。

そんなこと、いちいちメモらなくて良いですから。

別に、いちご大福が嫌いな訳でも、加那芽兄様とお茶をしたくない訳でもない。

ただ、僕はこれから…。

「試験勉強…しないといけないので」

「…試験勉強…」

「来週から始まるんです、最初の試験…。だから、遊んでいる暇はないんです」

「…」

…真顔で黙り込む加那芽兄様。

な、何で黙るんですか?

自分がティータイムに誘っているのに、試験勉強ごときを理由に断るなんて、と気を悪くし、

「試験なんて…二の次で良いんじゃないかな」

…何を天方部長みたいなことを言ってるんですか。加那芽兄様。