「俺は不正を『もみ消した』わけではないので」

 秀がしれっと言う。

「俺は不正な製品の製造を停止しただけです。事業にメスを入れ、当時の管理職――竹内さんはじめ株式会社竹内の役員全員を、すべて解雇しています。これは『もみ消し』ではなく『是正』であり、どちらかと言えば褒められるべき行為だと思います。違いますか?」

 秀は自分たちを取り囲む通行人たちに問いかけた。カメラを向けていた通行人たちは、みな小さくうなずいている。

「ありがとうございます。そうですね、俺の行動に悪い所があったとすれば、それは葉月さんの家族を一家離散に追い込んでしまった事だけです。でもようやく皆さんに安定した生活を提供できた。これからは弊社の中で、ミナモトの皆さんにも一緒に成長していってもらうつもりです」
「上屋敷くん……」

 秀は凄い。葉月はそう思った。
 全部全部、会社のため、ミナモトのため、そして葉月のため。彼ほど周囲を見て、周囲の為に行動できる人はいない。彼ほど格好いい人はいない。
 しかし竹内はいまだわめき続けている。

「認めない! 認めないぞ! なんでお前だけ善人ぶるんだ! 畜生!」
「はいはい、静かにしてください」

 そんな時、人混みの中から男性の声が聞こえてきた。人混みをかき分け竹内の元へやって来たのは、制服姿の警察官である。

「すみませんね。騒いでる人がいるって通報があったので。ちょっと話きかせてもらえる?」
「え、え?!」

 竹内は警官に囲まれ、急におとなしくなっていった。