葉月は気持ちを整理しようと、駅ビルの中にあるコーヒーショップに立ち寄った。狭いカウンター席に座って、ぼんやり考えながら珈琲を飲む。

(お父様、怖い顔をしていた)
(もしも竹内の元社長と争いを始めたらどうしよう)
(それに、上屋敷くんは竹内元社長と何を話していたんだろう)
(もし、また、上屋敷くんと竹内元社長が、お父様の仕事を奪おうとしていたら……)

 嫌だ。
 全部、嫌。
 今の生活が壊れるのは嫌だ。
 嫌な気持ちごと珈琲を飲みこんだところで、葉月の隣にぽっちゃりとした男性が腰かける。横目で隣をちらりと見た葉月は、目を疑った。

(え、竹内元社長?)

 そこに座ったのは、さっきまで秀と話をしていた竹内だった。話が終わって帰るところなのだろう。驚きすぎて、目が離せない。

「なんですかな、お嬢さん。ボクの顔に何かついてます?」

 気付いた竹内が葉月の顔を覗き込む。

「あ、いえ。すみません」
「ん? ……やや? あなたもしや、源のお嬢さんでは?」
「えっ」

 竹内はなぜか葉月のことを知っていた。会ったことなど一度も無いはずなのに。

「いやはや、葉月嬢! これは運命の出会いですね!」
「え、いや、なんで、名前……」

 この男はなんなのだろう。葉月は薄気味悪く感じる。