「葉月、上屋敷専務から何か聞いているか?」
「ううん、何も。『今日は別行動です』って言われただけ」
「そうか」

 父は秀と竹内を見据えている。
 葉月は今日の予定はおろか、父と秀、そして竹内との因縁さえよく知らなかった。ただ、父のただならぬ雰囲気から、いまだ消えぬ遺恨があるのだとわかる。

「葉月、お前は今すぐ帰りなさい」

 父はそう言って、財布から千円札を数枚取り出した。

「でも」
「タクシー代だ。行きなさい」

 裕福でもないくせに、父は葉月にタクシー代を押し付ける。押し返そうとしても、父がそれを許さなかった。よほど葉月に関わって欲しくないのだろう。
 父の想いを汲み、葉月はその場を離れることにした。
 お金を使う気にはなれず、葉月は独りでとぼとぼと駅に向かって歩く。

 こっそり竹内に会っていた秀。
 竹内を見て葉月を遠ざけた父。
 あの日の買収劇は、いまだ葉月に近い所でくすぶっている。