秀は葉月を無視したまま、父に向って頭を下げる。

「この事業を任せられるのは源さんしかいないと考えています。引き受けてください」
「私で良いんですか」
「はい、お願いします」

 それから父は秀の提示した条件を受け入れ、上屋敷ホールディングスで働くことに決めた。秀の手はずで、父は現在の会社を退職。その場で一週間後の上京が決まる。
 あっという間だった。
 結局「例の件」がなんだったのかはわからないけれど、それでも葉月の心は晴れていた。
 それはやはり、父に救いの手が伸ばされた事によるだろう。

 数時間後。
 引っ越し準備のため現地に残る父と別れ、葉月と秀は駅のホームにいた。東京に戻るため、2人で新幹線を待っている。

「上屋敷くん、ありがとう」
「何がですか」

 葉月が感謝を伝えたら、秀はそっけなく返事をした。

「父に会わせてくれて感謝してる。あと、父をまたあの仕事に関わらせてくれて、ありがとう」
「礼を言われるような事ではありません。元はと言えば俺のせいなので」

 秀が足元へと視線を落とす。苦悩する顔。彼は罪悪感を抱えているのかもしれない。

(そんなに自分を責めなくても良いのに)

 葉月は自然と心の中で秀を擁護していた。

「上屋敷くんは強いね」

 葉月の呟きに、秀はよくわからないといった顔をする。

「私、上屋敷くんのこと、誤解してたかもしれない」