(思いませんでした、か)

 彼は自分のした事を理解している。葉月に優しい言葉をかけてもらえる立場ではないと、彼は認識しているのだ。

(それはそうだけど、でも……)

 葉月は不思議とその距離感をもどかしく感じてしまった。心配すら出来ない仲だと秀に突き付けられたみたいで、なんだか気分が悪い。

「でも私、倒産に追い込まれたことを許したわけじゃないから」

 許したわけではない。けど、だからといって、心配にならないわけでもない。どちらの感情も葉月の中にしっかりとある。

(じゃあ私は、この男にどんな感情を向けるのが正解なのよ)

 答えのわからない問いが葉月の頭を駆け巡る。
 眉をひそめる葉月と同様に、秀もまたソファーの上で眉をひそめていた。

「あの買収は……」

 秀は何か言おうとして、「いえ、なんでもありません」と口を閉ざしうつむた。言いたいことがあるなら言えば良いのに。葉月は冷めた心でそう思った。