葉月が秀の秘書になって3ヶ月が経過した頃、葉月には気付いたことがあった。

 まず、秀はありえないほど多忙だった。
 国内屈指の大企業である上屋敷ホールディングス。その専務取締役である秀は、分刻みのスケジュールが当たり前だ。会社の責任者として全国をあちこち飛び回っているし、社外との付き合いも多い。

 また、秀は葉月の思った以上に頭の切れる男だった。
 二十代前半という若さで取締役を務める秀。そんな彼に近づいてくる人間は味方ばかりではない。秀もそれはよくわきまえていて、人と関わる時には常に気を張っていた。敵を牽制しつつ、重要な人材を味方につけて自分の地盤を固めていく。それが華麗で見事だった。
 ただ――。

「上屋敷くん、まだ寝ないの?」

 秀の自宅リビング。時刻はもうすぐ午前1時になろうとしている。
 終業後、帰ってきた葉月と秀は交互に風呂を済ませた。掃除や片づけを終えて部屋に戻ろうとした葉月は、風呂上がりに秀がリビングでタブレットを眺めている事に気付き声をかけたのだ。

(真剣な顔……)

 秀がこんな時間まで何をしているのか、葉月だって本当は知っている。
 新聞や経済誌、企業のプレスリリースを片っ端から読み、社会情勢や今後の展望を把握しようとしているのだ。
 この努力こそが彼の見事な手腕の(いしずえ)と言える。それはもちろんわかっている。けれど。