葉月と秀は二人で並んで歩き、24時間営業のドラッグストアへと向かった。
 秀は意外と背が高く、歩く時にはさりげなく車道側を歩いてくれる。スマートで紳士的だ。

(そんなこと、知りたくなかった)

 葉月にとって秀は憎悪の対象だった。それなのに、当然のように優しくされては困る。紳士的な彼に怒りを向ける葉月の正当性がなくなってしまう。
 そんな事を考えながら、葉月は秀に従って歩いていった。

「では源さん、好きな物をカゴに入れてください。金は俺が出します」

 ドラッグストアに着くと秀は当然のようにカゴを持ち、狭い店内を葉月と肩が触れるような距離で回り始めた。何度も何度もふたりの手が触れる。

(なんか、こう……同棲中のカップルみたい)

 そう思った葉月は慌ててそれを否定した。冗談じゃない。こんな男とカップル設定なんかしてたまるか。
 雑念に囚われる葉月の隣で秀が足を止める。商品棚を眺めながら葉月に尋ねた。

「源さんは普段どのシャンプーを使っていますか? 同じ物が良いですよね」
「別にどれでも構わないわ。いつも業務用の安いやつを使ってたから」

 信じられないほど高いシャンプーが視界に入り、葉月はため息をついた。世界が違う。葉月が一番安い商品に手を伸ばした時、秀はそれを制止して2千円以上もするシャンプーを手に取った。

「綺麗な髪がもったいないです。良い物を使いましょう」

 ――綺麗。

 不覚にも葉月は一瞬ドキッとしてしまった。この男がそんな事を言うとは思わなかったのだ。