触れるだけでもドキドキするのに、あのまま唇が重なっていたら、私の心臓はどうなるのだろう。

 想像するだけで顔が赤くなってしまうわ。

「おかえりなさい、エリカ」
「ただいま戻りました、お母さま。……おでかけですか?」
「ええ。たまにはデートをしないとね」

 私たちが玄関に入ると、綺麗に着飾ったお母さまが出迎えてくれた――というよりは、今から出掛けるみたいだ。

 お父さまも着飾っているし、二人が並ぶとなんだかまぶしい。

「お母さまたちは明日まで帰らないから、二人でいろいろ話し合いなさいねぇ」

 私に近付いたお母さまが、こそっと耳にささやく。

 驚いて目を見開くと、お母さまは鼓舞するように私の肩をぽんぽんと叩いてからウインクした。

「それじゃあ、レオンハルトくん、エリカのことをよろしく頼むよ」
「はい、楽しんできてください」

 お父さまとレオンハルトさまがそう言葉を()わして、入れ替わりのように両親が屋敷から出て馬車に乗る――までを見送り、ちらりと彼を見上げる。

 私の視線に気付いたのか、レオンハルトさまは「どうしました?」と首をかしげた。

 慌てて「いえっ」と両手を振ってから、真っ直ぐに彼を見つめて、カーテシーをする。

「レオンハルトさま、今日は私のワガママに付き合っていただき、ありがとうございました」
「ワガママにも入りませんよ」
「そうでしょうか……? 私はとても心強かったですわ」