「それで、話とはなにかしら?」
「――アデーレ・ボルク男爵令嬢のことです」

 私が彼女の名を口にすると、デイジーさまはぴくりと眉を跳ねさせた。

「彼女なら、まだ塔の最上階よ」
「それは、いつまでのことでしょうか?」

 気になっていたのは、卒業パーティー後に(おこな)われるパレードのこと。

 つまり――ゲームのエンディングだ。

 でも、この状況でパレードなんて行えるとは思えない。

 ダニエル殿下と私の婚約破棄は、パレードの準備をしていた人たちを困惑させただろうと思うと、心が痛むわ。

「彼女の頭が冷えるまで、かしらねぇ? あの子、かなりわけのわからないことを言っていたから」
「どんなことなのか、お聞きしても?」
「ええ。『ヒロインはわたくしなのに!』とか『どうしてあの力が目覚めないの!?』とか、『このままじゃエリカさまが幸せになっちゃう!』とか言っていたわねぇ」

 ……ゲームのヒロインに転生したけれど、あの不思議な力は使えないってことよね。

 最後に関しては、どうしてそこまで私を幸せにしたくないのかわからない。

 彼女に恨まれることをした覚えはないのだけど。

「本当にわかりませんね。なにを言っているのか」

 呆れたように眉根を寄せるレオンハルトさま。

 言っている意味を理解できるのは、きっと私だけね。

 デイジーさまはお茶を飲んで、「そうでしょう?」と口にした。

「あの子と話していると、頭が痛くなるのよね。この世のすべて、自分のものだと思い込んでいる感じがして」

 ……まぁ、ダニエル殿下ルートでは国母になるし、間違ってはいない?

 なんて考えながらもお茶を飲む。

 スッキリとした後味のお茶だった。

 私の物語も、このくらいスッキリとした結末を迎えてくれると嬉しい。