「すまない、エリカ嬢。この愚息が本当に申し訳ないことをした。エリカ嬢の貴重な八年を付き合わせてしまって……」
「いいえ、オイゲン陛下。おかげで私もいろいろ学べましたので……」

 十歳の頃から八年間。

 いろいろなことを教えてくれた人たちには、感謝しかないわ。

 その気持ちを込めて微笑むと、オイゲン陛下は申し訳なさそうに眉を下げ、そして口を開く。

「ダニエルとエリカ嬢の婚約は、今日を以て白紙にすることを宣言する。理由はダニエルの不貞。ふたりとも、こちらに来なさい」
「父上!」
「わ、わたくしもですか?」
「いいから、さっさとついてきなさい。お前たちのことを、たっぷり聞かせてもらう」

 地の底に響きそうな声だった。

 それだけで、オイゲン陛下がとんでもなく怒っていることがわかる。

 ごくり、とダニエル殿下とアデーレが唾を飲み込み、慌てて陛下のあとを追っていくのを見送った。

 ――さて、このくらい付き合えば良いわよね?

 こちらを(うかが)うような視線を感じながら、私は扇子を閉じてカーテシーをする。

「それでは、私はこれで失礼いたします。みなさま、良い卒業パーティーをお過ごしください」

 にこり、と微笑みを浮かべて、ほんの少しだけ駆け足で会場をあとにした。

 幸い、私を追ってくる人はいない。

 まぁ、あれだけの騒ぎだったのだから、興味本位でも声をかけられる雰囲気ではないと、みんな察したのだろう。