あの乙女ゲームでアデーレがヒロインだった理由は、不思議な力が使えたからだった。――でも、その不思議な力の欠片も、彼女は見せていない気がする。

 どういうことなのかしら……?

「難しい顔をしていますが、どうかしましたか?」
「いえ。本当に……早くフォルクヴァルツ領を見てみたいですわ」

 緩やかに首を左右に振って、にこりと微笑んでみせると、レオンハルトさまは小さくうなずいた。

 そのあとすぐに、食事の準備が整ったとメイドが知らせてくれたので、彼と一緒に食堂に足を進める。

 手を繋いで歩くだけでも、こんなにドキドキするんだ、と甘い恋の蜜に心が浸かったように感じた。

 食堂にはすでにお父さまとお母さまがすでに座っていて、私たちが手を繋いでいるのを見て、微笑ましそうに目元を細める。

「うふふ、すっかり恋する乙女の顔ね」
「えっ」

 思わず頬に手を添えてしまう。

 お父さまが「良かったなぁ」と穏やかに言ったけれど、私の顔はそんなに恋をしているように見えるのかしら、とちらりと彼を見上げる。

 じぃっと見つめられていることに気付いて、鼓動が跳ねた。

「わたしの顔はどうでしょう?」

 お母さまに顔を見せるレオンハルトさま。お母さまはキョトンとした表情を浮かべてから、くすくすと笑う。

 花が(ほころ)ぶようなその笑い方は、誰をも魅了するように思えた。さすが、お母さま。