うるっとお母さまの瞳が(うる)んだ。

 ハンカチを取り出して、目尻に浮かんだ涙を(ぬぐ)う。

 そんなお母さまを、お父さまが愛おしそうに抱きしめた。

「エリカのために我々が怒るのは当然だ。親だからな。ダニエル殿下とアデーレ嬢は、これからどうなるのか……まぁ、二人にはもう関係ない人たちなのだから、幸せになることだけを考えなさい」

 この国にいる以上、関係はあると思うのだけど……

 でも、そうね。

 おそらくもうほとんど会うことはないでしょう。

 なんらかの行事で顔を合わせるくらいかしら?

 アデーレに関しては、どうなるのかもわからない。

 彼女は男爵令嬢だから……ボルク男爵は、どういう決断をなさるのかしらね。

「スッキリしたらお腹が空いたわぁ。みんなで一緒に食べましょう?」
「はい、ぜひ」

 お母さまの言葉に、レオンハルトさまはぺこりと軽く頭を下げた。

 私はとりあえず自室に向かい、このドレスを脱ごう。そして、別のドレスに着替えよう。

 気合いを入れる用事は、もう終わったのだから。

「それでは、レオンハルトさま。私は着替えてきますね」
「はい、お疲れさまでした」
「レオンハルトくんは着替えるかい?」
「そうですね、着替えます。正装ってなんだか着慣れなくて、変な感じがするので……」
「……そうか、きみは騎士団の服を着ていることのほうが多いか」

 お父さまが納得したようにうなずき、それから私に視線を向ける。

「エリカ、食事の時間までゆっくり休んでいなさい」
「はい、お父さま。それでは、また食事の時間に」

 カーテシーをしてから、自室に足を進めた。

 後ろをちらりと振り返ると、お父さまとレオンハルトさまがなにかを話しているのが見える。

 どんな会話をしているのかしら……?