「――なんの騒ぎだ?」

 重厚な低音の声が聞こえた。ビクッと身体を強張らせたのはダニエル殿下だ。

 それもそうだろう。実の親であるオイゲン陛下が、パーティー会場に来たのだから。

 ダニエル殿下の父親であるオイゲン陛下は、厳しい視線を彼とアデーレに向け、私に対しては申し訳なさそうに一瞬眉を下げた。

 陛下も、殿下の浮気癖について知っている。

 陛下は陛下で「今に目を覚ますから……」と濁していた結果がコレだから、きっと頭痛がするに違いない。

「……ダニエル、どういうことか、説明してもらおうか」

 ぎろりと眼光を鋭くして、ダニエル殿下を見るオイゲン陛下。ダニエル殿下はしどろもどろになりながら、自分の都合の良い言い訳を伝えていた。

 よくもまぁ、そこまで口が回るものだと呆れてしまう。

 私ひとりを悪役にして、自分たちは愛を貫く……なんて、うまくいくはずないじゃない。

 こんな大勢の前で、(はずかし)めるために婚約破棄を宣言したのだから、証人はたっぷりといるのだし。

 オイゲン陛下は一通り殿下の話を聞いてから、私にも(たず)ねた。

 なので、さっきの出来事をそのまま伝え、さらにふたりに対して慰謝料を請求するつもりであることを話す。

 カタカタと肩を震わせるアデーレに、「大丈夫だから」とぎゅっと彼女を抱きしめるダニエル殿下。

 ここだけ切り取れば、可憐な女性を守る騎士のようだ。

 その実態は――まぁ、言うまでもないわよね。