気付いたのはダニエル殿下と婚約してから。

 なんだか聞いたことがあるなー、なんだったかなーと思っていたら、一気に前世の記憶が流れ込んできたのだ!

 乙女ゲームの中に転生だなんて、本当にあったのねぇ。

 記憶を取り戻してから、いろいろ準備をし始めた甲斐があったわ。

「きっとアデーレさまなら、ダニエル殿下の浮気も受け止められますわ! 私と婚約してから八年、一年に一度は必ず浮気しておりましたもの。それも、見せつけるかのように。私が傷つくのを見て、優越感に浸っていたのでしょうか?」

 実際、最初は傷ついた。婚約者がいながら、他の女性と浮気するなんて……しかも、わかりやすくいちゃつきながら、こちらをちらっと見るのだ。

 私が傷ついているかを確認するように!

 そんな人、こちらから願い下げよ!

 ダニエル殿下はプライドが傷つけられたのか、カッと顔を真っ赤にしながら「黙れ!」と叫んだ。

 静まり返ったパーティーの会場の中、彼の言葉が響く。さっきまでの余裕はどうしたのだろうか?

「殿下は知らないかもしれませんが、殿下のお相手は慰謝料を払ってくださいましたよ? もちろん、殿下にも慰謝料を請求いたします。ここ三年以内のお相手にも……それに、アデーレ・ボルク男爵令嬢にも」

 にっこりと微笑んで扇子を広げ口元を隠す。

 アデーレはぎょっとしたように目を見開いた。

 まさか自分が慰謝料を請求されるとは思わなかったのかしら?

「ひ、ひどいですわ、エリカさま! エリカさまのおうちはとってもお金持ちじゃないですか! 貧乏なわたくしからお金をむしり取ろうなんて、そんなひどいことをなさるのですか!?」

 ……貧乏かどうかは関係ないわよね。だって、婚約者を奪ったのだから。

 呆れたように両肩を上げると、きっと目尻を吊り上げて睨まれた。

 まぁ、確かに男爵家よりも伯爵家であるレームクール家のほうが、お金はあるんだろうけど……慰謝料の意味を知らないってわけじゃあ、ないよね?