「……あの、エリカ。少し寄りたいところがあるのですか、良いですか?」
「え? ええ、もちろんですわ」

 顔を真っ赤にさせたまま尋ねられて、こくりとうなずく。

 どこに寄るのかしら? と考えていると、レオンハルトさまは馬車の御者に合図を送る。

 窓を数回叩く、という合図なのだけど、よくわかるなぁって感心しちゃう。

「もしかして、御者もフォルクヴァルツの方なのですか?」
「ええ、結構長い付き合いなんですよ」

 だいぶ気持ちが落ち着いたのか、真っ赤だった顔が『フォルクヴァルツ辺境伯』というキリッとした表情に変わった。

 顔を真っ赤にさせたレオンハルトさまは可愛いし、こういうキリッとした表情は格好良いし、本当にどうしてこの人が結婚していなかったのか……!

 そのおかげで私はレオンハルトさまに出逢えたのだけどね!

 運命の神さま、ありがとうございます! 感謝しています!

 なんて心の中で叫んでいたら、レオンハルトさまが「エリカ?」と不思議そうな顔をした。

 おっと心の声が顔に出ていたのかもしれない。

 慌てて扇子を広げて口元を隠し、にっこりと微笑んでみせた。

「ところで、どちらに寄るのですか?」
「それはついてからのお楽しみです。まだかかるので、休んでいてください」

 レオンハルトさまはごそごそと荷物の中から毛布を取り出し、差し出す。

 ……毛布の準備もしていたなんて、と驚いたけれど、こういう移動に慣れているのだろうなとも思った。

「……では、お言葉に甘えて」

 アデーレのことで張り詰めていた糸がぷつりと切れたからか、一気に安堵感が増したからか、眠くなってきた。きっと、御者の腕も良いのだろう。

 目を閉じると、あっという間に眠りに落ちた。