「レオンハルトさま、アデーレさまはこのまま拘束してくださいますか?」
「え? は、はい」

 私に手出しができないように、きつく彼女の身を拘束するレオンハルトさま。

 彼女に近付いて、耳元でささやく。

「――あなた一人がヒロインだと、思わないことね」

 この世界で生きている一人一人が、ヒーローでヒロインなのだから。

 私の言葉に、アデーレは弾かれたように顔を上げて、悔しそうに表情を歪め、がくんと項垂(うなだ)れ涙を流した。

 その後、塔から抜け出した彼女を探しにきていた城の騎士たちに引き渡す。

 どうやって塔を抜け出したのかわからなかったけれど……、彼女の執念を感じてぞっとした。

「……エリカ、震えていますよ」

 レオンハルトさまに言われて、自分が震えていることに気付いた。……怖くはない、と思ったのに。凛とした姿をアデーレに見せつけて、ゲームの『エリカ・レームクール』ではないことを示したくて……

「情けない姿を見せてしまいましたね」

 眉を下げて微笑むと、レオンハルトさまはそっと私の頬に手を添えた。

 人が少ないとはいえ、ここは街道。ちらちらとこちらを窺うような視線を感じながら、彼と視線を交える。

「……馬車に戻りましょう」
「え、ええ」

 頬に添えた手を離し、代わりに手を握るレオンハルトさま。彼に引っ張られるように歩き、馬車に乗り込んで、背もたれにもたれかかった。