声を高らかにそんなことを口にするアデーレに、頭が痛くなった。ゲーム内の『エリカ・レームクール』と、この世界の『エリカ・レームクール』は同一人物ではないの。

「アデーレさま。この世界は、誰のものでもないでしょう。私たちはこの世界で生きているのだから、一人だけのために、世界は成り立たないわ」

 懐剣(かいけん)を握りしめたまま、淡々とした口調でそう伝えると、彼女はギロリと睨みつけてきた。

 ――大丈夫、怖くない。

「あなたは、きちんと『私』を見てくれていたかしら?」

 ダニエル殿下の婚約者だった頃、私はあなたに近付かなかった。ゲームの『エリカ・レームクール』がしてきた悪事に、手を染めなかった。それだけでも、わかるでしょう?

 私が――この世界の、『エリカ・レームクール』が、断罪される理由がないことを!

「う、るさい、うるさいっ、わたくしは、この世界の主人公なのよ!」
「……彼女、錯乱しているのですか?」

 アデーレと私の会話を聞いていたレオンハルトさまが、困惑したようにこちらを見る。

 私は彼女が正気だと理解しているけれど、レオンハルトさまにとってはそう思えるわよね。

「――ええ、おそらく。私、アデーレさまとはあまり会話したことありませんし、ここまで憎まれているなんて、悲しいですわ」

 レオンハルトさまから見えないように、さっとうつむく。

 アデーレはぶつぶつとなにかをつぶやいている。耳を澄ませると、「そんなはずない、わたくしが主役、幸せになるのはわたくし」と聞こえてきた。