レームクール邸が完全に見えなくなってから、私は前を向く。

 レオンハルトさまが優しい瞳で見ていたことに気付いて、思わず顔を赤くさせた。

 ――この感覚、慣れる日はくるのかしら?

「エリカ。……大丈夫ですか?」
「……ええ。永遠の別れではありませんもの」

 それでも、両親のもとから巣立つのは、寂しさを感じてしまう。

「ゆっくりとフォルクヴァルツに向かうルートなので、ついでにいろいろな場所も見ていきましょう」

 私に気遣ってくれているのかな? と思ったけれど、考えてみれば彼はフォルクヴァルツ辺境伯。

 自分の治める領地や周りの領地を、見て回りたいのかもしれない。

「それは楽しみですわ」
「結婚前に、エリカのことを領民たちに知らせておきたいですし……」

 私のことを、知らせておきたい? と目を数回瞬かせた。

 すると、レオンハルトさまはなにかに気付いたように、すっと視線を馬車の外へ向ける。

 思わず同じ方向に視線を移すと――な、なにあれ!?

「……うーん。一度、ここで止まりましょうか」
「は、はい……」

 御者に馬車を止めてもらう。

 人が少ないとはいえ、街道に……どうして彼女がいるの!? しかもなんか、怖いんですけど!?

 どうやって塔から抜け出したのか、こちらを血走った目で睨んでいるのを見ていると、乙女ゲームではなくホラーゲームに転生したと言われても納得しちゃうわよ!?