「そもそも、私はこれからレオンハルトさまと一緒に旅立つのです。彼らに関わろうとも思いませんわ」

 断言。本音だ。

 ダニエル殿下とアデーレがいる王都から去りたいというのも当然だし、関わりたくないのも当然だろう。

 もうここまでくればゲームとはまったく違うと思うし、私の精神が壊れて家族が泣くなんてことにはならないと信じたい。

「関わらせません。もしも、関わるのなら、わたしも一緒にいきます」
「心強いですわ、レオンハルトさま」
「うふふ。そうね。夫婦で乗り越えていくのが一番よぉ」
「――そこそこ複雑な気持ちになるのは、許しておくれ……」

 お父さまが本当に複雑そうに表情を歪めているから、お母さまは「あなたったら」と少し呆れたように肩をすくめた。レオンハルトさまは困ったように眉を下げている。

「レームクール伯爵。大切なエリカ嬢を(めと)ることをお許しいただき、ありがとうございます。彼女を大切にし、幸せにすることを誓います」

 深々と頭を下げるレオンハルトさまに、お父さまは目を瞬かせて後頭部に手を置き、一度大きく深呼吸をしてから、彼に声をかけた。

「――きみも、幸せになるんだよ、レオンハルトくん。まぁ、うちの子が(そば)にいるなら、大丈夫だとは思うけど」

 なんて茶目っ気たっぷりで言うお父さまに、私は目を丸くした。

 私たちの幸せを願ってくれる。そのことがとても嬉しい。

 そして、お父さまの茶目っ気たっぷりの声色を聞いたことがなくて、知らない部分もまだあるのだと実感した。