この世界に転生して、最初に考えたのは自分の保身。

 婚約破棄される未来を知ったのだから、それを回避しようと思うのは当然よね?

 それに、婚約破棄されたあとのレームクール家を想像すると、胸が痛んだ。

 私ね、本当に好きなんだ。この世界の両親も、使用人たちも。

 いつも私を見守ってくれた人たちを、好きにならないわけがない。

 だからこそ、慎重に動いていたつもりなんだ。

 ダニエル殿下の婚約者になったあと、どうすればレームクール家に迷惑をかけずに婚約を白紙に戻せるのかをがんばって考えたのも、今となっては懐かしいわね。

 私自身、頭が良いわけじゃない。凡人なのだ。

 誰かをあっと驚かせるようなアイディアなんて思い浮かばない、ただの凡人。

 もちろん、レームクール伯爵家の令嬢として、教養はしっかり学んだけど!

 そんな中、ダニエル殿下は一年というスパンで他の令嬢を口説き落としていた。

 令嬢たちの嘲笑(あざわら)うような笑顔を、今でも覚えている。

 まぁ、そんな人たちには証拠をたっぷりと見せて、『慰謝料、よろしくお願いいたしますね?』と爽やかに請求したけどね!

 隠すつもりのない浮気って、本当……なにを考えているのかわからなかったわね。おっと、思考が逸れた。

「……アデーレ嬢とダニエル殿下が結婚する場合、どうなるのでしょう?」