「アデーレ・ボルク男爵令嬢は、頭を浸すために塔で過ごしているけれど、あのままダニエル殿下と結婚するのかねぇ?」

 眉根を寄せて、悩むように言葉をこぼすお父さま。

「彼女と結婚することを選ぶのなら、それはそれで愛だとは思うわよぉ?」

 お母さまが頬に手を添えて、ゆっくりと息を吐く。

 その表情から察するに、『どうでもよい』って感じかしらね。

 レオンハルトさまが私たちを見渡して、眉を下げた。

「ダニエル殿下は本当に彼女のことが好きなのでしょうが、アデーレ嬢のほうはどうでしょうか? わたしには、彼女がなにかに()りつかれているように見えるんです」

 ――否定はしない。できない。

 彼女のあの感じだと、本当に憑りつかれているように見えるもの。

 自分が国母になると信じて疑わないのは、ヒロインであることを知っているからだろうけど……それを口にしては、いけないと思うのよ。

「デイジーさまも頭が痛いでしょうねぇ。陛下もでしょうけどぉ……」

 お母さまはデイジーさまのことを心配しているみたい。確かに、大変だと思う。

「王太子を決めるのを、先にしていて良かったのかもしれないな」
「そうねぇ。こうなったら、陛下にはまだまだ元気でいてもらわないと困るわねぇ」

 両肩を上げるお母さま。ゆっくりと息吐くと、ちらりとレオンハルトさまを見た。

「エリカのことをお願いします」
「――はい、お任せください」

 すっと胸元に手を置いて、軽く頭を下げるレオンハルトさまに、両親は満足そうにうなずく。

「それにしても、いったいどんなことを調べてもらっていたんだい?」
「アデーレ・ボルク男爵令嬢と、ダニエル殿下がどうやって恋仲になったか、を主に。曲がり角でぶつかったのかが出会いだったそうですよ」