「お父さま、これは?」
「レームクールの風習だ。嫁ぐ娘に懐剣(かいけん)を渡すっていうね」
「懐剣……」

 こくり、とお父さまがうなずく。

「これは、エリカが生まれたときに作ってもらったんだ。この前メンテナンスしてもらったから、切れ味も最高だよ」

 私は両手を出して、懐剣を受け取る。

 ……知らなかった。レームクール家に、そんな風習があったなんて。

「……フォルクヴァルツは国境だからね。危険なこともあるだろう。エリカはフォルクヴァルツ辺境伯の妻になるのだから、その覚悟はあるだろうとは考えている。でもやはり、娘には生きていてもらいたいからね」

 つまり、これで護身しろってことね。

 懐剣は思っていたよりも大きくもなく、軽かった。

「――ありがとうございます、お父さま」

 お父さまが私の身を案じてくれていることに、思わず笑みを浮かべる。

 ぎゅっと懐剣を握りしめてから、視線を落とし「抜いてみても?」と聞くと、お父さまは「それはお前のなんだから」と微笑んだ。

 鞘から抜いて、真っ直ぐにその刀を見つめる。

 ……まさか、この世界で刀を見ることになるとは。

 西洋の剣なら、何度か見たことはあるけれど……東洋の刀はこの世界にきてから、初めて見たわ。