「エリカ、それは……」
「私を、あなたの妻にしてください」

 すっとお母さまにつけてもらったブローチを見せた。彼はブローチと私を交互に見る。

「このブローチは、お母さまからいただいたのです。祖母から母へ、母から娘へ受け継げられるブローチとのことですわ」

 きっと、お母さまは、私の心が決まったことに気付いたんだわ。

 だから、このブローチを渡してくれた。

「――本当に、よろしいのですか?」
「――はい。私はレオンハルトさまに、惹かれていますから」

 そっと目を閉じると、レオンハルトさまに抱きしめられた! え、えっ? なに、どうして私、彼に抱きしめられているの!?

「本来なら、一度フォルクヴァルツに戻って、エリカを迎える準備を終えてから……なのでしょうが、荷造りも終えているのなら、一緒に行きましょう」

 身体を少し離れて、視線を合わせる。にこりと微笑む彼に、「よろしいのですか?」と(たず)ねると、すぐに「もちろんですよ」と返事がきて、ぱぁっと表情を明るくさせた。

 すると、ほんの少し、レオンハルトさまの頬に朱が走った……気がする。

「……フォルクヴァルツに向かう道中は、どうしましょうか?」
「どう、とは……?」
「急いでいくのか、ゆっくりいくのかでルートが違うんです」
「ちなみにレオンハルトさまは、ここまでどちらのルートで?」
「急ぎのルートですね。エリカの気持ちが変わる前に、と急いできました」