「これはねぇ、お母さまが受け継いだものなのよぉ。祖母から母へ、母から娘へって受け継ぐもの。――嫁ぐときに、渡すものなのぉ」

 パカッと開けて、小さな箱の中身を見せてくれる。

「ブローチ?」

 オレンジ味のピンク色。美しいその宝石を見て、思わず感嘆(かんたん)の息を吐いた。

「ええ。この宝石にはね、『夫婦のお守り』、『慈愛』、『安心』という石言葉があるのよぉ」

 小さな箱からブローチを取り出し、そっと私のドレスにつける。

「――あなたの子が女の子だったら、その子に受け継がせてねぇ」

 にっこりと微笑むお母さまに、私はなんだか目頭が熱くなった。

 お母さまに抱きついて、お父さまとお母さまの娘であることを嬉しく思うことを伝えると、お母さまも涙を流して、私の頭をよしよしと撫でてくれた。その優しい撫で方に、いろいろな思いが込み上げてくる。

「幸せになりなさい。あなたの幸せが、お母さまたちの幸せなのだから」

 小さな子どもに諭すような優しい声。

 鼻の奥がツンと痛む。

 こうして私のことを思いやってくれるお母さまと離れて過ごすことになるのが、少し切ない気持ちにさせた。

 でも、それでも。

 私は――……

「幸せになります、絶対に」

 彼とともに生きることを、望んだ。

 顔を見上げてお母さまを見る。

 それから、お母さまはふふっと笑みを浮かべて、「荷造り手伝うわぁ」と言ってくれた。

 このブローチ、大切にしよう。