――あのあと、レオンハルトさまは私を部屋まで送ってくれて、去り際にもう一度、唇を重ねた。

 ……寝付けなかったのは言うまでもない。それでも、短時間は寝たと思う、たぶん。

 朝、メイドたちに起こされて「昨夜、なにかございましたか?」と尋ねられるくらいには、表情を取り(つくろ)えていなかったのだろう。

 いや、無理でしょう、たった数時間前のことを思い出さない、なんてできないわ!

 私が顔を真っ赤にさせたのを見てピンときたのか、メイドたちはみんなあたたかーい視線を送ってきたので、誤魔化すように「今日は昨日の荷造りの続きをするわ!」と宣言した。

 メイドたちはにこにこ……いや、にやにや? と笑っている。

 見透かされているようで、なんだか恥ずかしい。

 ドレスに着替え髪を整え、化粧で肌のコンディションを誤魔化し(眠れなくて(くま)ができていた)、朝食のため食堂へ。

 両親はまだ帰ってきていなくて、二人だけの食事だった。

 レオンハルトさまは私に気付くと、爽やかな笑みを浮かべる。

「おはようございます、エリカ」
「おはようございます、レオンハルトさま。……昨夜は、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」

 なんて会話をして、二人して顔を赤くさせる。

 だってまだ、感触を覚えているの。

 そんな私たちのことを、使用人たちはみーんな、あたたかーい目で見ているものだから、なんだかすっごく気恥ずかしい。

 ――とも言えないから、とりあえず食事をしようと椅子に座る。

 レオンハルトさまも。

 すぐに食事が運ばれて、黙々と食べる。