申し訳なさそうに眉を下げるレオンハルトさまに、私は勢いよく頭を左右に振る。

「い、いえっ、私こそ、すみません。不慣れで……」
「……あの、変なことを聞きますが、ダニエル殿下とは……」
「していませんっ、レオンハルトさまが、私のファーストキスの相手です!」

 ダニエル殿下とそういう雰囲気になったこともなかったしね。

 レオンハルトさまはどこかホッとしたように表情を緩めた。

 ……って、自分で初めてだと暴露してしまった。いや、本当に初めてだったんだけど……!

 あわあわしている私を見て、レオンハルトさまは口元に弧を描いた。

 その表情がすっごくこう……『獣』のように見えて、ヒェッって心の中で叫んだ。だって、あんまりにも格好良すぎるから!

 こんなに心臓が早鐘を打っていて、私の身体は大丈夫なの!?

 するり、と後頭部から頬に手が移動する。

 そしてもう一度、可愛らしくちゅっと軽いリップ音を立てて、彼の唇が重なった。

 うっとりするくらいの甘い視線を受けて、ドキッと鼓動が跳ねる。

「――フォルクヴァルツにつくまで、耐えられるかな……」

 ぽつりとつぶやくレオンハルトさまに、首をかしげた。

 ハッとしたように口元を押さえて、それから誤魔化すように笑うのを見て、私も曖昧に微笑む。

 ファーストキスが月夜の中庭って、なんだからロマンチックな気がしてきて、内心でヒャァァアと叫んだ。

 もちろん、言葉にはしない! しないけれど、いつか叫びそうで怖い!

 せめて、彼の前では叫ばないように気をつけよう……! と、心に決めた満月の夜だった。