「――あのね、あなたたちにお願いがあるの」

 荷造りをしていた手を下ろして、真剣な表情でメイドたち一人一人を見つめる。

 私の様子に、彼女たちは荷造りの手を止めて、無言で言葉の続きをうながす。

「お父さまとお母さまのことを、よろしくお願いするわ。両親も、私にとってかけがえのない人たちだから」

 そう、かけがえのない人なのだ。私にとって、両親は。

 エリカ・レームクールに、たくさんの愛情を注いでくれた。

 あの日を境に、性格が変わった私のことを受け入れてくれた。そんな両親に、たくさんの感謝を伝えたい。

 だからこそ、メイドたちにも両親のことをお願いしたかった。

「――もちろんですわ、お嬢さま。旦那さまたちは、私たちにとても良くしてくださいますもの」

 穏やかな表情で微笑むメイドたちに、ほっと安堵の息を吐く。

 私がいなくても、両親たちは元気で過ごしてくれるだろう。

 ダニエル殿下ルートのゲームのエンディングを思うと、胸がツキンと痛んだ。

 あれほど可愛がっていた娘が、精神を自失してしまって、両親はどれだけ(なげ)き悲しんだのだろう、と。

 ……まぁ、その予定は、今の私にはないわ。

 結局パレードの話も流れているみたいだから、実質的にもうゲームのシナリオとはかけ離れているということだ。

 安心はまだできないかもしれないけれど……警戒しすぎることもないだろう。

 ……きっと。