――やっと卒業パーティーで婚約破棄イベントが終わった。結構時間の流れが遅く感じるものなのね。

 でもこれで、私は婚約者なしのフリーに戻るということだ。

 婚約破棄をされた側だから、私に求婚する珍しい人はいないのではないかしら?

 十歳の頃から八年間、お世話になりました、ダニエル殿下。

 どうか、アデーレと幸せな家庭を築いてくださいね!

 意気揚々とレームクール邸に帰った私を出迎えたのは、両親だった。

 私が帰るまでに誰かが今日のことを伝えたのだろう。お母さまは私を見るなり、がばりと抱きついてきた。労わるようにぽんぽんと背中を撫でられて、なんだか心がくすぐったい。

「疲れたでしょう? 今日はゆっくり休みなさいねぇ」
「はい、お母さま」

 こつんと額と額を重ねて、心配そうに私を見つめるお母さま。隣に立つお父さまに視線を移すと、小さくうなずいていた。

 お言葉に甘えて、今日はもうさっくり休んでしまおう。

 婚約破棄イベントが終われば自由になると思っていたけれど、予想以上に精神力がごっそり持っていかれるものね、としみじみ感じながら、私は自室に足を進めた。

 自室につき、メイドたちの手を借りてドレスを脱ぎ、ネグリジェに着替える。

「今日はもう下がって良いわ。おやすみなさい」
「……おやすみなさい、エリカお嬢さま」

 メイドたちに声をかけて、ぱたんと扉が閉まるのを確認してから、ようやくひとりになれたと肩をすくめた。