再び僕が目を開けると、そこはいつもどおりの裏庭だった。

 辺り一面にユリの花が広がっている。それはとても美しく、まるで毒花のように狂い咲いていた。
 僕はその中から、一際(ひときわ)美しく咲くユリに手を伸ばす。鼻孔に漂うのは、甘く(かぐわ)しい匂い。それは人の心を惑わす毒の花。


「君はとてもきれいだね。だけど……」

 僕の掌の上で咲く、純白の花弁――僕はそれを、強く握りしめた。

「あんまり目立つと、散ることになるよ」

 ハラハラと、白い花びらが舞い落ちていく。寂しげに、悲しげに――。


 ――それは僕の、七歳の誕生日のちょうど前日のことだった。
 そしてその日を境に、僕はもう二度と、裏庭に立ち入ることはなかった。